米国の2000年前後のソフトウェア企業を分析 ソフトウエア企業の競争戦略

◎ ソフトウエア企業の競争戦略 マイケル・A. クスマノ


日本のソフトウェア産業は「製造業」 - My Life in MIT Sloan
http://blog.goo.ne.jp/mit_sloan/e/5c9a3dcc58d54b986526aab19a27fa19
で,
スローンのマイケル・A. クスマノ教授の
”日本のソフトウェア産業は「製造業」”だとの意見を知り,
興味が湧いて読んだ。


2004年3月に出版され,2004年12月に翻訳本が出版されている。
2004年初めに,経済産業省MOTプログラムの一環で
マイケル・A. クスマノ教授を含めた講義がMITであり,
その時の有志で,この本の出版直後から翻訳をしたそうだ。
この本に対する日本IT業界の入れ込み方が感じられる。


ソフトウェア,コンピュータ業界の歴史から,
1990年台後半から2003年頃に
アメリカ,少々ヨーロッパで起業されたベンチャー・ソフトウェア企業の分析から
事例を使って成功に必要な戦略の解説。


従って,日本のソフトウェア業界の話は少なく,
元々の興味からは少々離れていた。
しかし,ソフトウェアで起業する人,
米国で起業する時の理解には役立つ。


それにしても,ソフトウェアでも日本は欧米とは違っていて,
世界に売るのは難しそう。


教授の経験から,
ソフトウェア業界を,ソフトウェア製品企業,ソフトウェアサービス企業,その中間のハイブリッド・ソリューショ

ン企業の3つに分類している。
また,起業後に成功する視点を8つにまとめている。
8つの視点とは

  • 経営陣
  • 魅力的な市場
  • 魅力的な製品やサービス
  • 顧客の関心
  • 信頼性
  • ビジネスモデル
  • 柔軟性
  • 投資家への見返り

これらは,当然思うような項目もあるが,
8つにまとめる割り切りが良いのだろう。
6章終わりに,10社を8つの視点で点数付けしてあるので,
これも参考んある。
投資家への見返りと言う項目は,日本では相違がありそう。


コンピューター,ソフトウェア業界の歴史を語る3章,
ソフトウェア企業のいろいろな形態の説明の4章,
3つのソフトウェア企業の分類の10社の成り行きと8つの視点で分析で解説する6章,
まとめの7章
辺りが読みどころ。


7章の427ページに

ソフトウェア企業には超えなければならないもう1つのキャズムがあることにすでに気づいていたということを。そのキャズムとは,まったく未経験のユーザーである。コンピュータをもっていない人々が世界には50億人以上存在しているのだ。コンピュータ装置は,いまやPCだけではなくインターネット対応携帯電話(ノキアシンビアンをご覧あれ!),個人用情報端末(もっとも筆者は,PDAは携帯電話に吸収されるまでの過渡期の装置と考えているが),手のひらサイズのコンピュータ・・・・・

ここ数年Appleが出してきているiPodiPhoneiPad
ここで言っているキャズムを超えることがあるのでは,
とも思った。




以下,目次。


第1章ソフトウエア・ビジネス
  技術としてのソフトウエア
  日本企業からマイクロソフトにいたる研究
  欧米企業と日本企業の重要な違い
  ソフトウエア・ビジネスの基本:二つの企業事例から

第2章ソフトウエア企業の戦略
  製品企業とサービス企業のどちらを選択するか
  どの顧客をターゲットとするか
  製品ラインナップと市場セグメンテーション
  継続的売上げの確保で、景気の波を越える
  ホールプロダクト・ソリューションと「キャズム
  リーダーかフォロアーか、それとも補完製品メーカーか
  企業の特性
  本章のまとめ

第3章ビジネスとして成功するための方法
  システムとサービスがビジネスを立ち上げた
  最初のソフトウエア製品ビジネス
  IBM:顧客ソリューション一〇〇年の歴史
  新プラットフォームを目指す新しい起業家
  インターネットの“ゴールドラッシュ”
  オープンソースと“フリー”ソフトウエア
  本章のまとめ

第4章開発のベスト・プラクティス
  共通する問題と解決策
  同期安定化プロセス
  戦略の実行と微妙な差異の取り組み
  米国、欧州、日本、インド企業の違い
  インド企業へのアウトソーシング効果
  本章のまとめ

第5章ソフトウエア起業家精神
  勝算は少ないのが現実
  起業に向けての八つの成功必要条件
  本章のまとめ

第6章スタートアップ一〇社のケーススタディ
  製品企業のスタートアップ四社
  サービス企業のスタートアップ三社
  ハイブリッド・ソリューション企業のスタートアップ三社
  本章のまとめ

第7章ソフトウエア・ビジネスの理想と現実
  理想主義と現実主義
  次に越えるべき「キャズム

監訳者あとがき



気になった点。


41ページ

不況時には,顧客(個人,法人を問わず)はすでに利用しているソフトウェアの新しい場ジョンw買わないことにす

るかもしれない。この「買わないかもしれない」という可能性が,ソフトウェアの製品企業の収益にとってとてつもな

く大きなりすくである

52ページ

ソフトウェア企業の健全性を測るもう1つの指標は,販売効率,または従業員一人当たり売上高・・・・
ただし一般的に言って,ソフトウェア企業は経費を一定の割合に抑えるべきである。販売管理費であれば総売り上げ

の二十五〜三十%以内,研究開発は,10〜15%,一般管理費は5%程度に収め,利益の目安として,売上高営業

利益率を20〜30%にするのがよいだろう。製品企業およびハイブリッド企業で,革新的な製品や広汎な製品ライ

ンを追求している企業の場合には,各経費の比率,特に研究開発費やマーケティング費は少々高くなるかもしれない

63ページ

要するに,ほとんどの法人向けソフトウェア企業にとって,製品とサービスというビジネスの二側面を完全に分離す

ることは不可能なのである。法人顧客の多くは,新しいソフトウェア製品を購入すると,通常アップグレードなどの

メンテナンス契約にとどまらず,さまざまなサービスを要求する。またM&Aなどを通じてビジネスのマインドセッ

トや人材を替えない限り,サービス企業から製品企業へ進化するのは容易ではなさそうである。

86ページ

この事例から学ぶべきことは何か。だれもが使える汎用ソリューションが要求される水平型市場に比べ,求められて

いるソリューションが明確な垂直型市場のほうが制覇は容易だ。もし,ある垂直型市場を押さえたら,次に別の垂直型

市場,さらにまた別の市場と(SAPが行っているように)広げていくことができる。このように段階的に成長する

ことで,最後には垂直型ソリューションを水平型ソリューションへと転換できるかもしれない。新たなソフトウェア・

ベンチャーは,どこか特定の場所からビジネスを開始し,世界に挑戦する前に自社の力量を確認する必要がある。そ

して,小さくとも魅力的な垂直型市場が,そのようなスタートを切るには絶好の場所であると思われる。

89ページ

ソフトウェア企業は,定期的に自社製品を再評価し,その提供範囲が適正かどうかを判断すべきである。水平型市場

で大ヒットとなるかもしれない製品については,まずh垂直型市場で,足がかりをつかむことが必要だ。

100ページ

多くの新興企業が経験するもう1つの課題は,最先端のユーザーではなく,保守的ではあるが多数存在するメインスト

リム(主流)の顧客に売るにはどうすればよいか,という点だ。この問題を取り上げたのが,戦略およびハイテク・マ

ーケティングに関する書籍としては古典的存在の,ジェフリー・ムーアの『キャズム』である。

画期的なのは,ハイテク戦略とマーケティングに関する伝統的な考え方に対して,挑戦的な提案をしている点である

。従来の考え方では,セールスは異なる市場セグメント−イノベーター(革新者),アーリー・アダプター(先駆者)

,アーリー・マジョリティー(早期購買多数層),レイト・マジョリティー(追従者),ラガーズ(無関心者)−を

またぎながら成長し続けていくもので,ある顧客層は次の段階の顧客層にとっての先行事例とされていた。これに対

してムーアーは,アーリー・アダプターとアーリー・マジョリティーの間に「キャズム(溝」が生ずることに着目し,

我々はしゅとしてこの点に注目すべきだと説いている。

101ページ

たとえばアーリー・アダプターが購入しようとするのは変革のための手段であり,それによって競争で一気に優位に立

ちたいと考えているのである。こういった購買層は,急進的な変革,不連続性,バグに対する心構えを持っている。

一方,アーリー・マジョリティーは目の前にある業務の生産性を改善する手段を求めており,他人がつくった新製品の

デバッグなどはしたくない。したがって,アーリー・アダプターはアーリー・マジョリティーの適切な先行事例とはな

らないのである。ところが一方で,アーリー・マジョリティーは,よい先行事例がなければ購買はしない。よく言われ

る「キャッチー22(八方ふさがり)」の状況である。

105ページ

もう1つ重要な点は,ニッチ・プレイヤーからメインストリーム・プレイヤーに移行するのはかなり難しいということ

である。たとえば自社のニッチな製品に拡張可能性がるかどうかを,どうやって知ればよいのだろうか。もっと重要

なことは,現状の競争戦略やオペレーションの方法を変更し,マス・マーケットの顧客ニーズに継続的にこたえ続け

ていけるようになるためには,どのようにして会社内部の組織能力を活性化させればよいのだろうか。

171ページ

アルテア・コンピュータ(訳注:74年に米国で発売された世界最初のPC)

234ページ

マイクロソフトで行われている「同期安定化プロセス」の最初のステップは,開発目標書をつくることである。この

文章は,新製品の目標と市場を定義し,ここの機能がサポートするユーザーの活動内容と,その優先順位が書かれて

いる。

278ページ

開発手順に関しては,85%が機能仕様書を作成しており,ほぼ70%が構造的で詳細な設計を重視し,必要最小限

の計画とドキュメンテーションでコードを各プロジェクトは少数派である。こうした従来型の優れた実践方法は,特

にインド,日本,欧州で根強い人気を誇っている。これに対して,米国のソフト開発者は,ほとんど詳細な設計書を

作成しないという点が大きく異なる。

253ページ

範囲の経済
革新と設計戦略に対するもう1つの見方は,創造性または構造化の程度をいかに向上させるか(少なくともどちらかが

必要な場合)に加え,範囲の経済をどのように高めるかという点である。範囲の経済とは,別々の製品を同時に製作

する場合の効率性のことであり,現在継続しているビジネスにとっては常に重要な問題である。

255ページ

アーキテクチャ戦略
残念なことに,いくつかの企業にとって(ここではネットスケープのブラウザ・グループも含めたい),仕様の進化

,プロジェクト期間中の多くの機能変更,そしてデイリー・ビルドからなる開発の手法を達成するには,プロジェクト

アーキテクチャに対する特有のアプローチを必要とする。

302ページ

  • VCが毎年提示されるビジネスプランのうち,実際に資金提供するのは1000のうち6件
  • 資金提供を受けた企業のうち公開できるのは20%未満,より正確には10社のうち1社程度
  • 「正常な」時期(すなわちバブル期以外)には,スタートアップ企業は株式公開するまでに約5年を必要とする
  • VCから資金提供を受けたハイテク企業の約60%は倒産し,30%は合併されるか清算する
  • VCは,ソフトウェアのスタートアップ企業がIPOするまで,その約60%の資本を保有する
  • 創業者やCEOが,IPO後も保有する持ち株比率は4%以下。IPOの平均額は約650万ドルである

308ページ
図表5-2インフォメーション・テクノロジーのトレンド予測の図が面白い


312ページ

起業家が潜在的な市場の魅力を説明する際に,最悪な方法の1つは,巨大な市場またはセグメント(たとえば米国の

金融機関は前年にITと情報コンテンツにいくら費やしたか,あるいは米国企業がソフトウェア契約にいくら費やした

か,といったような事実)について述べたうえで,もしその数十億ドル市場の1%か2%を獲得できれば,ビジネス

として十分成立するだろうと述べ立てることである。規模だけが,市場または事業計画を魅力にするのではない。と

りわけ競合企業に対する明確な優位性を確保し,顧客へのアクセスが優れ,模造を防ぐ何らかの手段を持たない限り

,スタートアップ企業がわずかでも市場シェアを確保できる保証は一切ない。

314ページ

製品が実際のところどれだけ魅力的かということは,顧客が喜んで支払おうとする金額に反映されるだろう。ここでカギとなるの質問は,顧客にとっての価値は何かということである。

392ページ

ベンチャーが成功するためには,戦略,計画,予算,人事,そして最も重要な潜在顧客に対して,常に注意を怠らないことが必要である。

418ページ

製品販売は,「大成功か,大失敗か」というビジネスモデルである。

422ページ

  • 主として製品企業なのか,サービス企業なのか
  • ターゲットは個人か法人か,マス・マーケットかミッチ・マーケットか
  • 製品またはサービスは,どの程度水平的か,垂直的か
  • 好不況にかかわりなく入ってくる継続的な収入源は確保できているか
  • メインストリーム市場の顧客をねらうのか,「キャズム」を回避しようとするのか
  • 目指すのはマーケット・リーダーか,フォロワーか,それとも補完製品メーカーか
  • 会社にどのような特徴を持たせたいのか



以上