自然の素晴らしさを実感 田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」

◎ 田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」



誰かのブログで紹介されていて読んだ。
この本も素晴らしい本。


著者はハンガリーで自然の素晴らしさを感じ、
卒業後、就職した会社での偽装販売などが嫌で退社。
その後、パン屋になる。
東日本大地震福島原発問題などで
岡山県の田舎町に引っ越して自然と共生してのパン作りを始める。


非常に面白い、通常から考えると少々変わったパン屋を経営しています。
・利益を出さな
・結構高いパンの値段
・週に3日休む
・毎年1か月間の休み
・天然菌と自然栽培でのパン作り


マルクスの話なども交えながら、
現代の資本主義、物質主義の問題、経済的な仕組みの問題などを説く。


昔からの日本の仕組みは、自然の仕組みの素晴らしいさも判り易い。


天然のものは、いつか腐って土に戻り、生命が循環して生きていく。
つまり、「腐る経済」は生命の循環する本来の経済社会。


しかし、現代社会の経済は、
金を貯めること、利益を増やすことが主体の世界で、
循環しない、「腐らない経済」の世界になっている。


現在の便利な世界、安い商品、
特に安い食品は、人間の体のためには良くない。


この辺は、自分でも医療制度などでも実感していることと合致している。
表面的な症状を治そうとするだけの西洋医学と薬。
一時的に、表面的には病気は治るが、
根本解決にはなっていないので、症状は再度でるか、別な症状になる。


まあ、これは自分だけの特殊ケースかな。



当書籍は、誰にでもお勧めの、素晴らしい本です。
特に小さい子供いる親は、一度読むべき本でしょう。



気になる個所のメモ


73ページ

「発酵」と「腐敗」は、どちらも、自然界にあるものが、「菌」の働きによって土へと還る、自然の中に組み込まれた営みだ。つまり、自然界のあらゆるものは、時間とともに姿を変え、いずれは土へと還っていく。



75ページ

かたちあるものはいつか滅び、土へ還るのが、自然界の抗いがたい法則なのに、おカネはそもそも、そこから外れ、どこまでも増え続ける特殊な性質をもっている。そのおカネの不自然さが、社会にさまざまな問題をもたらしていると、エンダは考えたわけだ。



131ページ

「天然菌」は、作物の生命力の強さを見極めている。・・・生命の営みに沿った食べ物を選り分けて、自分の力でたくましく生きているものだけを「発酵」させ、生きる力のないものを「腐敗」させる。ある意味で「腐敗」とは、生命にとって不要なもの、あるいは不純なものを浄化するプロセスではないかと思うのだ。



171ページ

地域通貨の発想を、パン屋なりにアレンジして発展させ、「利潤」ではなく、「循環」と「発酵」に焦点を当てた、「腐る経済」に挑んでいる。



177ページ

マルクスいわく、資本主義経済の矛盾は、「生産手段」をもたない「労働者」が、自分の「労働力」を売るしかない構造から生まれている。そこでマルクスは、労働者みんなで「生産手段」を共有する共産主義社会主義)を目指したわけだ





185ページ

「ふつうの」外食産業やパン屋では、人件費と原材料費を、それぞれだいたい3割ずつ、ふたつあわせて6割程度に収めるのが「常識」とされる。それと比べて、僕らの店の経費の内訳は、ちょっとふつうではない。人件費と原材料費がそれぞれ売り上げの4割強ずつ、あわせて8割を占めている。こういう経費の構造では「利潤」の出しようがない。「搾取」のしようがないことを、従業員にも伝えて理解してもらっているのだ。

「利潤」を追求しないと言っても、赤字を垂れ流すようでは、もちろん店が成り立たない。収支をトントンにして、損益分岐点クリアを目指すのが重要だ。「利潤」ゼロ、損益分岐点に着地させれば、投資した分は必ず戻ってくる(給料だって投資のひとつだ)。それで店は続いていく。「利潤」で膨れ上がることもなく、損失で萎んでいくこともなく、明日も変わらずパンをつくって届けることができるのだ。



188ページ

「利潤」を出さないということは、誰からも搾取しない、誰も傷るけないということ、従業員からも、生産者からも、自然からも、買い手からも搾取をしない。そのために、必要なおカネを必要なところに必要なだけ正しく使う。そして、「商品」を「正しく高く」売る。この搾取なき経営のかたちこそが、おカネが増殖しない「腐る経済」を作っていくのだ。



198ページ

「おむつなし育児」という方法に出会った。抱っこしていて、ちょっとした「うんちをしたい」のサインを察知したら、庭につれていってさせる。そうしたら、いつも下痢気味で何度もおむつを汚していたのがウソのように、便の通りがよくなった。
・・・・・・
赤ちゃんはたぶん、おむつが汚れるのが気持ち悪くて、排便のコントロールが上手くできなかったのだと思うとマリは言う。その赤ちゃんの言葉にならないサインを、母親として察知できるかどうか。



202ページ

そういう視点で見ると、今の社会は、「科学」にちょっと偏りすぎじゃないか、と思う。昔の人は、「科学」がなくても、自然を見る「目」を磨き、感性を鋭くして、自然のなかで何が起きているかをつかんでいた。
「発酵」の世界がまさにそう。昔の人は、顕微鏡もないのに、豊かな発酵文化を作ってきた。「発酵」と「腐敗」は紙一重なのに、それを、自分の「目」と感性で嗅ぎ分けていた。



205ページ

東川さんは、「パンは、人が食べるものなんだ。人間の身体は、食べたものから作られているんだ。パンは人の生命を作るものなんだ。だから、その自覚と責任を背負って、パンを作らなければいけない」



206ページ

こうしてパンを作り始めて10年が経った。気がつけば、「天然菌」や「自然栽培」にのめりこみ、「パン屋でこんなことしている人はいない」、「不思議なパン屋」、「面白いパン屋」とまわりからいわれるようになっていた。
手っ取り早く何者かになろうとしたってなれっこない。何かに必死で打ち込み、何かを究めようと熱中していると、ひとりひとりがもつ能力や個性が、「内なる力」が、大きく花開くことになるのだ。





209ページ

日本に資源がない言うんは大ウソですよね。森があって水があって、四季がめぐり、豊かな資源に恵まれています。

確かに、日本に資源がないというのは、工業製品生産のための資源のことを指しているようだ。


213ページ

世界最古の木造建築、法隆寺は、1300年、倒れることなく建っている。コンクリートも釘も鉄筋も使わずに、それでも倒れることなく建っている。


工業製品のように純粋培養された癖のない菌ではなく、癖のある不揃いの多様な「天然菌」をうまく活かしてこそ、「発酵」は力強くなる。それなのに、「発酵」の世界からは、「菌」を自ら採取し、「菌」を見抜く技術がほとんど廃れかかっている。古いとか、非科学的だとか言われることもある。この状況を僕はなんとかしたい。「天然菌」で「酒種」をおこし、パン屋だけれども日本古来の酒造りの方法を掘り起し、次の世代に受け継いでいきたいと考えているのだ。



229ページ

僕は、ほんとうにパン屋になってよかったと思っている。パンでなければ、地域の経済を作るという目標も、経済を「循環」させ、「発酵」させ、「腐る経済」をつくるという発想も、思い描くことはできなかった。