素晴らしい原発問題のまとめ 原発への警鐘

◎ 原発への警鐘 (講談社文庫)


この本も誰かのブログで紹介されていて、図書館で借りて読んだ。


内橋克人さんが昭和57年(1982年)秋から週刊現代に連載。
1984年に日本エネルギー戦争の現場として出版され、
1986年に文庫化された。


震災後、2011年に出版の、日本の原発、どこで間違えたのか
が、再発版かと思ったが、一部分の再録だそうだ。


目次をみると判るが、
・日本の原発の歴史的経緯
・日本での原発技術の問題から発達
・放射問題
・被ばく訴訟
原発マネー問題
原発問題全体をカバーしている。


原発が開発に至る経緯、導入時の苦労、
技術的問題とその解決での技術者の発達、
電力会社の原発からの利益計上、
原発誘致による地方への金のばらまき
など、非常に判り易い。
且つ全般を網羅しているので、
一方的な原発反対ストーリーになっていないのも良い。


但し、1982年の執筆なので、内容的に更新された情報が欲しい。



第5部の原発マネーフローは読み応えがある。


365ページから

いったいなぜ、原発の発電コストは石油火力はもとより、石炭火力に比べても安い、と説くことができたのだろうか。
神話の秘密は次の通りだった。
原発には巨額の国家予算がつぎ込まれる。

原発には国として援助しているのに、石油などは課税をしている。

原発の高コストは「電気料金」で吸収する仕組みになっている。

固定資産の帳簿額、建設中の資産の半額、核燃料所有額、株式・社債発行費、運転資本、特定投資
の合計をレートベースと呼び、
このレートベースに8%を事業報酬として原価に組み入れて電気料金になっている。
つまり電力会社は常に利益率が決まっている。


370ページからは、政府発表の電力需給の数字のからくりの話。
電力需要は減っていて、供給は足りているという話。


378ページからは、送電端予備率の辻つま合わせのからくり。

「送電端」というのは、発電所内や送電時での自家消費分(ロスを含む)を差し引くという計算をやったうえで、「予備率」を示すやり方であるそうだ。その分、少しでも供給能力は減る。(発電力の10〜15パーセント)
「送電端のほうはいわば小細工的ですが、二番目の定期検査は大細工。新聞発表などに使われているのは、すべてこの大細工、小細工済みの数字なんです。専門家の私でさえ、なかなか気がつきかなかったほどで・・・・・・・・・・・
電力消費がピーク時を迎える夏場に、わざわざ「定期検査」を入れるのだとういう。
ピーク時、休んでいる設備(有給供給力)に定検を施し、その分を「最大供給能力」から差し引いてしまう。



380ページ

カネを喰うだけ喰いちらし、低レベル放射能線の不安をまき、国民世論を亀裂に追い込む。地方自治体に「タカれるだけタカる」精神的土壌を蔓延させた。
ここに「原発亡国論」が唱えられても決しておかしくはないと私は思う。



381ページ

電力過剰時代をもたらした背景の事情について、『原子力の経済学』(日本評論社)の著者、室田武一橋大学経済学部教授(計量経済学)は次のようにいう。
「電力の設備計画というのは高度成長時代の考え方そのままで突っ込んできました。低成長時代に入っても、それがそのまま生きているんです。とりわけ原子力発電の場合、まるで軌道修正がなされていない。これが一般企業なら、経済の状況変化に敏感に対応して、すみやかに軌道修正をやらないと生き残れない。ところが電力の場合は、地域独占企業であることから、値上げという、もう1つのやり方で(変化に)対応するわけですね。日本では電力は独禁法の対象外で、1地域1社独占体制になっている・・・・・・



383ページからの、揚水発電の矛盾、

「電力過剰時代」を招いた第二の原因解明に移ろう。
「発電設備の巨大化そのものが、必然的に設備利益率を低下させる仕組みをもっている」・・・・
「発電設備が大きくなると、1つ故障するとガタっと出力が落ちてしまう、といった危険と常に同居しなければならない。やむなく、そのぶんに見合って供給予備率を高くしておかなけれならない、という経過をたどってきたこと。メンテナンスに時間がかかり、設備利用率も悪くなる、と同時に、内部消費、つまちせっかく、発電した電力を自分が喰ってしまうという分が大きくなってくることも軽視できない」・・・・
・・大型火力で発電量の5パーセント、原発で6パーセント・・・・・・・・・・・・



386ページ

わざわざ原発近くに、水力発電所をつくる。
夜間の余った電力で水を汲み上げておき、昼間のピーク時、今度は水を落下させ発電する。・・・・・・わずかながら、これでカバーしようという「ソンを少なくする」発想・・・・・これがすなわち「揚水発電」・・・・・
・・またその建設費用も巨額にのぼる(・・・俣野川揚水発電所は62万キロワット2基で、1664億円という)

揚水発電に限らず、原発のコスト計算には、同様にコストでありながら、コストとして加えられていないものが多すぎる。
原発は発電コストが安い」というのは、事実に反することが次第に明らかになってくる。
一般民間企業の生み出す商品の製造コスト算出法と比べてみれば明らかなように、見せかけの安い発電コストが捏造されているに過ぎない、といわざるを得ないのである。



392ページ
ここはアメリカでの話が少々。
この時期に、アメリカでは原発廃止の動きにでている。

一基、数千億円の巨費をまる呑みにして誕生する原子力発電所だが、その寿命はせいぜい20〜30年とされている。

393ページ
>>一定の耐用期間がすぎれば、原発廃炉の運命は避けられない。
にもかかわらず、そのための費用も、費用調達のメドも、技術的展望さえも用意することなく、原発は走り始めた。