黒人奴隷の歴史が良く判る ゴスペルの暗号

◎  ゴスペルの暗号 秘密組織「地下鉄道」と逃亡奴隷の謎


偶然図書館で見つけて読んだ本。


ゴスペルには、黒人奴隷が逃亡するための暗号が含まれている
という話で読み始めたが、
逃亡の方法、南北戦争の切っ掛けになる話しなどが
黒人奴隷の歴史的な話で面白い。
黒人音楽好きの人にお勧めの本です。


ゴスペルに隠された暗号の説明は始めの部分、
最終章では、歌詞とその解釈で何が暗号かの説明がある。
ロジック的に解読するのではなく、
感覚的に理解する暗号のようだ。


1800年代半ばの奴隷の状況は、
食料、靴、衣服も充分な状態でないか中で
言葉も良く判らない、文字の読み書き殆どできない、
移動手段もなく、
アメリカの地図もなく、地理的方向感も判っていない、
南部からカナダ辺りまで逃亡するのだから、
大変な逃亡だったのだろうと理解できた。


現代の旅行とは全く違う大変な逃亡だったのだろう。
だから地下鉄道なる、助ける人々がいて、
初めて逃亡が成功したのだろう。


地下鉄道というのは、南部から北部州、カナダまでをつなぐ
逃亡経路で、各所に駅があり、駅長がいて乗客(逃亡黒人)の世話をし、
駅から駅までは車掌が乗客を引き連れて行く
鉄道ということだ。


Undergraound Railroadで検索すると、
沢山のサイト、図が出てくる。
これは本当の話だったようだ。
しかし1900年代後半まで暗号としての秘密は守られて
最近になってやっと解明が始まったそうだ。


2章の地下鉄道という組織の説明、
3章の各役割と南北戦争につながる逃亡関連の争い、
4章の逃亡先、終着駅の説明
が面白い。



気になった部分


31ページ

礼拝を主宰する牧師さんはアフリカン・ローブに身を包み、サングラスをかけたドラム奏者を横に従えて礼拝が始まった。聖書朗読が進むと、会衆が牧師の一言一言に答え、やがてコンガがリズムをつくりだして、聖書朗読が「歌」になっていった。会衆があちこちでリズミカルに即興のメロディーを歌い出し、紺が奏者が同時に歌っていた。小さな教会内はトランス状態になり、会衆全員が立ち上がり、ゴスペルを創作しながら応答の形で歌い踊っていくのであった。



73ページ

木製の、「黒人の人形がランタンを持っている像」が入り口にたてられている家や店も「駅」であることが多かった。

このランプは現代のアメリカで良く見かけるが、
単なる飾りだと思っていた。
こういう理由は面白い。


161ページ

元奴隷達は「農業技術者」である場合もあり、南部でのタバコ栽培などは、北部州でもカナダでも可能であった。しかし、市場経済の中で暮らした経験のない彼らのとって、市場の動きを理解することは困難だったし、経済的に豊かになることは非常に困難なことであった。約150年後に、旧社会主義圏の国民が自由を得ても、すぐには市場経済に順応できない姿をロシアや旧東ドイツで、われわれは目の当たりにした。



162ページ

大部分の「乗客」は農園で働いていたので、特殊な技術は持っていなかったのである。ウエイターやポーター、料理人などはよいほうだが、いわゆる「居留地」に住んでいた大部分の農民には自分たちの「土地」があるわけでもなく、極貧の生活をし、多くは「物乞い」をして命をつないでいた。



174ページ

奴隷制の中で「黒人霊歌の持つ社会的意義」を考慮した音楽学者はいなかった。すなわち、黒人霊歌の音楽的内容と同時に「歌詞」の持つ暗号性や二重の意味などは、歌の中でしか伝えられない「奴隷の社会的制約」や「生存のための知恵」であることを理解していなかったので、歌詞の暗号としての性格までは考えようとしなかったのである。それは、歌詞を白人に悟られないで家族や仲間たちに伝えるための「暗号」とすることが黒人霊歌の本質であり・・・