航空運賃の本2冊

△  航空運賃のカラクリ 半額チケットでなぜ儲かるのか / 杉浦一機 著


運賃がどのように出来ているのか、仕掛けなどを知りたくて読んだが、
内容はエッセイ的で、運賃の仕組みを分析するような内容ではなかった。


団体旅行向けの航空券が余って、
安売り航空券になるのだと思っていたが、
今は違ってきて、
正式な航空券が安売り航空券よりも安い時期があるそうだ。
これは以外だった。


航空運賃は、
・非常に多くの種類があり
・購入時期、利用時期、
・購入・利用条件
・路線
などで非常に複雑。
且つ、頻繁に変更がある
のが問題と指摘。


割引運賃の要素には
・購入時期,購入手段,便の時間帯/曜日,利用頻度(往復,回数券),利用人数,
年齢,特定ルート,その他(障害者割引,介護帰省,株主優待など)
とあり、この部分は少々分析的。


問題は、日本の他の産業と同じく、
官庁が消費者、利用者のためでなく、
企業を守ることを主体の運賃施策になっていることが問題との指摘。


海外航空会社では、利益増加を目的に
イールド・マネージメント、スペース・プランニング、キャパシティ・コントロール
などのシステムが発達しているという話は面白い。


・イールド・マネージメント:

予約状況に応じて運賃を変更し,収入を最大化するためのプログラム。スペース・プランニング,キャパシティ・コントロールフライト・プランニングと連動して機能する。

・スペース・プランニング:

過去の実績(曜日,運航時間帯,天候,各種イベント,ビジネス客の比率,予約取消,不搭乗客数,当日購入数など各種データ)から,該当日のフライトの需要予測をするとオーバー・ブッキングの受付数を決定。

・キャパシティ・コントロール

スペース・プランニングで算出された需要予測をもとにフライトごとの最適な座席配分を割り出し,フライトの収入を最大限に高める工夫を行う。
フライト・プランニング:
乗客の予約を空いている時間帯へ誘導する上で,最も高価のある運賃をコントロールすることによって,フライトの収入を最大化するために働く。



航空業界で成功しているといわれる
サウスエウセトのビジネスモデルの基本。
・徹底した単純化によるコスト削減
・社員の高い意識に支えられた高い生産性


具体的には
1.ハブ&スポークでなく直行路線が原則
2.機材を1機種に統一
3.エコノミーの単一クラス
4.サービスは必要最低限
5.使用料の安い空港を利用
6.空港での折り返し時間を短縮(機材の稼働時間を延ばすため):
   平均20分/全米平均45分,6割は15分以内
   (機材の平均運航回数:11回/日,11時間3分/他社平均は8時間40分)
7.多頻度の運航(1路線で10往復が目安)
8.グループ意識による高い生産性
  (賃金は他社より5%高いが,生産性は他社より50~70%高い)
9.高い搭乗率


サウスウエストは2007年にはアメリカの航空会社で6番目の利益率。
昔はダラスへ頻繁に出張したのに、
サウスウエストを使ったことがない。
ダラスの直ぐ脇のラブフィールドという空港が主要空港だったのに。
まあ、昔なのでサウスウエスト自身が小さかったのか??


団体航空券は、包括運賃(IT)で、
ツアーに利用される運賃(IIT個人包括運賃:Individual Inclusive Tours)か、
5名以上に適用のもの(GIT 団体包括運賃:Group Inclusive Tours)
だが、
航空会社から大手旅行代理店に預けられる販売する座席を
アロットメントというそうだ。

売れ残りは,国内線では14日前に航空会社に戻され,国際線では明確な期限はない。海外のホテルでは1ヶ月前に日本の旅行代理店が放出する様子。

などは、業界ノウハウ。



△  航空運賃に異常あり! 激化する運賃・サービス戦線 / 杉浦一機 著


前の本で航空運賃について良く判らないので、この本も読む。
2008年8月の出版なので、最新情報。


驚きはIATA運賃が世界的には独占禁止法で排除されつつある。
だから2年ほど前にJALANA(?)も貨物に関して
ヨーロッパで独占禁止法違反で何億円もの罰金を取られたのだろう。
しかし、ここでも日本では国土交通省が、例外処置としている。
日本の社会システムは、どこまで行っても企業保護が先行している。


LCC(Low Cost Carrier:安売り航空会社)が世界的にはビジネスを伸ばしていて、
メジャーといわれる、昔からの大航空会社の業績が悪化している。
ヨーロッパでも航空会社は3社、アメリカでも数社にまとまりつつある。
利用者のことを考えない日本だけが世界の潮流から置いて行かれるようだ。


数年前には、シンガポールエアラインが
シンガポールからアメリカへの直行便を就航させたりと
航空機の機能の発達で、
日本を経由しない飛行も可能だから、
日本が世界の商売から相手にされなくなると大変だな。


日本も本当の意味での、規制緩和をすべきだ。
本書の”あとがき”が、規制緩和の問題を指摘し、
素晴らしい内容。
以前の仕事で、アメリカの電話業界の状況などを知ったが、
アメリカでは消費者のことを考えた政策で
規制緩和がどんどん進んでいる様子が良く判った。
結果、
大昔からの電話会社はどんどん変化し、
ついにはAT&Tまで元子会社に買収されるようなことになった。
日本の航空業界も規制緩和で変化が必要。



しかし、この手の本のターゲットとしている読者層は誰なんだろう。
まとめかたはエッセイ的だから業界の人には読むのに時間がかかる、
内容は航空運賃、航空業界に特化しているので、一般向けではない、
と思うのだが。
結局自分でも購入せずに、図書館で借りて読んだ。
結果、購入してまで手元に置いて置く本とも思えない。



参考:
以下の出版社である中央書院ページでは、”はじめに”全文、解説、目次と詳しい。
立ち読み 航空運賃のカラクリ 半額チケットでなぜ儲かるのか
立ち読み 航空運賃に異常あり! 激化する運賃・サービス戦線