日本の企業を改革する提言 勝つための経営

◎  勝つための経営 グローバル時代の日本企業生き残り戦略 (講談社現代新書)


日本の製品が何故売れなくなっているか、
日本の企業の問題点をしてきした、非常に面白い本。


日本企業、特に製造業では、
昔のままのビジネス方法にしがみついて、
現代、デジタル時代のビジネス形態に合致していない、
経営方針から変えていくべき、という本。


情報発信、収集が簡単になった現代では、
ものづくり、製造技術は簡単に誰でもが判る、利用できるようになった。
日本の製造技術は凄いといっている時代ではないという話。
納得できる説明。


デジタル時代の製品つくりでは、
製造技術・情報は簡単に入手できるので、
誰でもが簡単に製品を作れるので、
昔からの、ものがない時代と同じように
単に製品を製造するだけでは売れない。
消費者の要求に応える商品化をしないとダメ。


日本のように競合他社の商品を見て、
同じような製品を作るようでは売れないという話。


面白いのは、日本の強さは基礎研究だという部分。
昔はアメリカに比べて、日本は基礎研究に弱いとされていた。
10年、20年で基礎研究に強くなったのだろう。
しかし、これもアジアの国々が10年、20年で強くなる部分でもあるはず。


著者の吉川良三さんがサムスンで10年ほど改革に従事したということで
サムスンはじめ韓国企業の事例が多く、
特にサムスンの会長は素晴らしいとの紹介。


でも、あとがきでどんでん返しがあり、
サムスン会長は、松下幸之助の考え方に
従っていただけだったということだ。


経営者、企業の商品戦略などを考える人にはお勧めの本です。



本書の気になる部分のメモ


52ページ

このようなアナログもの作りの時代は、経験豊富な優れた技術者を多数擁している日本の独壇場でした。ところがデジタルもの作りの時代になると、状況は大きく変りました。例えば三次元CADの登場で設計情報を立体形状のまま現場に示すことが可能になると、ものづくりに図学の知識が不要になりました。またコンピューターにさまざまな情報を取り込んでシミュレーションを行うことで、パフォーマンスを向上させるための部品同士の組み合わせや、部品を効率よく配置することで狭い空間を上手く使うといったこれまで経験が必要とされてきた知識も簡単に得られるようになりました。要するに、各企業が長年の活動の中で培ってきたこれまでのノウハウが、ノウハウになり得なくなったのです。



56ページの製品開発の流れ図


57ページ

日本のものづくりが他国のものに比べて優れているのは、「R&D」、その中でも「基礎研究」の分野です。基礎研究は、長いものですと10年くらいの時間がかかります。日本企業は生産活動と並行して、基礎研究にも長きにわたって投資をしてきたので、様々な企業が色々な基礎技術を持っています。・・・・
じつはかつては、「製品開発」の分野も日本の企業の独壇場でした。
自社で全てをやるという垂直統合の形で高い品質を謳い文句にして、とりわけ生産技術の高さで1990年代ごろは市場を座捲していたのです。
この状況を変えたのがデジタルものづくりです。・・・ある程度の品質の製品の開発や生産がいつでもどこでも誰でもできるようになったのがデジタル化の最大の特徴です。生産技術の優劣が以前ほど武器になりません。



58ページ

彼らは、「製品開発」、その中でも特に売れるためのものを作る「市場分析」、「商品企画」とそのための「設計開発」に優れているのです。つまり「戦略の勝利」なのsです。



59ページ

つまり、優れた基礎技術を開発したのはいくら持っていても、それだけでは利益につながらないのです。日本企業ではよく、新しい技術を開発したのはいいけれど、そもそもその技術をどのような製品に結びつければいいのかわからないという話を聞きます。



60ページ

いまの世界のものづくりの勝負は、「先行開発」の力で全く新しい革新的な製品を生み出すか、市場のニーズを的確に捉え、「製品開発」で顧客が欲しがる製品を生み出すかで決まってっくるからです。



61ページ

強力な武器になる技術の条件は、よそが簡単にはマネできないもので、なおかつ大きな需要があることです。もちろんよそがマネできない技術であっても、需要がなければほとんど価値はありません。事実、かつて強力な武器だった技術がその後の環境の変化で需要がなくなり、競争力を失うといったこともよく起こっています。・・・・
これが技術力に依存したり、力を過信することの怖さです。技術は環境の変化に左右される生き物のようなものです。持っている技術を「絶対」のものとして過信したり、価値の変化を見誤ると、その先には必ず大きな落とし穴が待っています。



63ページ

技術への過信とおごりが招いた結果に他なりません。「うちから買うしかないからどんな条件でも呑むにちがいない」「どうせマネできっこない」という傲慢な態度が、身を滅ぼしかねない状況に追い込まれる原因になった・・・



(サブタイトル)

消費者の視点で見るとわかるおかしさ



73ページ

人を通じた情報流出は、日本の企業が長年にわたって行ってきた「技術者の使い捨て」のツケという側面もあります。・・・・・企業が大切な技術情報を扱ってきた人たちをそれなりに優遇するとか、定年退職後も彼らの力をどこかで生かすような扱いをしていたら、おそらくこのようなことは起こらなかったでしょう。
ベテランの技術者にしてみれば、お金の問題もさることながら、人から必要とされているというのは、大きな喜びです。



107ページ

組織の硬直化のパターンとしては、長く活動しているうちにだんだんと3つの「官僚主義」がはびこっていくのが一般的です。ここでいう3つの官僚主義というのは、「形式主義」、「数量主義」、「管理主義」のことです。



109ページ

極端なマニュアル依存主義で動く組織で働いている人は、やはてはほとんど自分のパートしか見えなくなってしまうという特徴があります。その狭い領域での判断を全てマニュアルに頼っているのです。



110ページ
(サブタイトル)

組織全体が「中間管理職化」



115ページ

日本の多くの企業は、この基本を忘れているかのような動きを平然としています。それは消費者より、ライバル関係にある同業他社の動きを気にする姿勢に顕著に表れています。



117ページ

一方では日本製品の欠陥である「過剰品質」を生む原因になっているのも確かなのです。これは消費者のニーズよりも、ライバル企業との技術競争を優先してきた結果ではないでしょうか。



129ページ

しかし厳しいことを言えば、補助金のシステムを未来永劫あるものと考え、何かあるとすぐに「国が何とかしてくれる」と言う人が増えるような国にはおそらく未来はありません。



134ページ

コンプライアンスの本来の意味は、「社会からの要請に柔軟に対応する」ことです。それが日本では「法令遵守」と”誤訳”され、その結果、企業の活動、人々の考え方にまで悪影響を与えているのは、元検事で現在弁護士として活躍している郷原信郎氏が指摘しているとおりです。



135ページ

こうしたことが続くと、その組織の人は、「言われた通りにやる」「決められたことをやる」ことがいちばん大切であるという価値観に支配されるようになっていきます。
そうした価値観が支配した世界で、いまの大変化に対応できる人間が育つのでしょうか?



152ページ

これまでの技術の組み合わせで、世界中のどこでも誰でもいつでもそれなりのものがつくれてしまうのがデジタルものづくりの最大の特徴です。この変化によって、日本のものづくりは一気に苦境に陥りました。



159ページ

情報発信こそが企業の信頼の基本と考えて、情報発信を活動の優先順位の高いところに置くといった工夫は今回の災害の教訓として今後は考えていく必要があります。
また、震災や洪水という不可抗力のものが原因とはいえ、欲しいときに欲しい製品が提供されないというのでは、グローバルな市場の要求に応えることはできません。



168ページ

このときに大切なのは、現地の消費者のニーズを的確にとらえることです。いくら価格が安くなっても、彼らが求めている機能まで削ってしまったらさすがに誰も購入しません。新興国でのビジネスを成功させるには、その土地の消費者の好みや心をしっかりと把握することが求められます。
そのためにもっとも有効なのは、やはり製品が実際にどのように消費されているかを徹底的に調査することです。



208ページ

いま必要なのは、組織にどっぷりと依存している個ではなく、独立した個です。これは与えられたマニュアルをただ従順に守るのではなく、与えられた役割の中で思考を巡らせながらマニュアルを自分自身でつくることができるタイプの人ということができます。