山一證券経営破たんの原因追究の記録 しんがり

◎ しんがり 山一證券 最後の12人


この本も、どこかのブログで紹介されていて、
図書館で予約し、可也待って読んだ。


素晴らしい行動の記録。
社員が自らが破たんの原因”簿外債務”の原因調査をした記録。


山一の破たん、倒産ではなく、大蔵省から命令されての自主廃業だが、
その経緯も興味深い。
官庁/官僚が次の施策への布石の意味もあったようだ。
また、簿外債務を追求しなかった官僚にも何か問題があるのだろうな。


私利私欲、自分の出世のため徒党を組んで簿外債務と知りながら
破たんへの道を突き進んでいく、思慮の足りない、企業倫理に欠ける大企業の経営者達。


人は組織、グループになると善悪の常識的判断ができないのだろうか?


会社人間、経営者、金融関係者などにはお勧めの本です。


山一證券 社内調査報告書 PDF」で検索すると、
「社 内 調 査 報 告 書. −いわゆる簿外債務を中心として」というPDFを発見できます。
この本にも登場する社内調査に弁護士として参加した國廣さんの事務所のサイトです。


この調査報告書を自分でも読み始めたところです。
多分、本当の報告書だと思いますが、
当書籍では104ページと記載されていますが、
このPDFは78ページで、どこかが削除されている可能性もあるのだと思います。


この報告書は調査結果の事実だけが記述されているのでしょうが、
もっと細かい調査委員や関係者と山一の経営陣、社員などとの話し合い、経緯などは
この本を読まないと判らないと思います。


こういう本を読むと、素晴らしい行為と感心するかたわら、
考えの足りない経営者、マネジメント、会社組織が嫌になります。
自分の殆どの労働人生をサラリーマンとして過ごしましたが、
やはり自分には向いていない仕事の仕方だなと思ってしまいます。



本書内の気になる部分


55ページ

会社は菊野のように同調しない人間を排除する組織である。抵抗する者を中枢から追い出し、同調する人間を出世させていく。この「同調圧力」という社内の空気のなかで、時には平然と嘘をつくイエスマンを再生していく巨大なマシンでもある。

こういう組織では、トップは裸の王様になり易く、足元の危機、リスクを理解できず、常識的判断もできずに、
後々、企業が破たんしてしまう。
何だか、今の安倍政権も同じ方向のように感じている。

 彼が通学した国民学校では、校庭に米兵に見立てたわら人形が立っていた。校門のそばに竹やりが立掛けられており、一年生の晋次たちは毎朝、その竹やりでわら人形を一突きしてから教室に入るように指導されていた。南九州上陸作戦を計画していた米軍と竹やりで戦えというのだ。
 あまりにばかばかしいことだったが、それを口にするものはいなかった。・・・・・・・・・・・・・ところが、戦争に負けると、英霊を称えた興奮は幻のように去り、軍国主義から一転して民主教育が叫ばれた。
 晋次は敗戦直後、教師から「教科書に墨を塗れ」といわれたことを忘れることができない。「ヘイタイサン ススメ ススメ」。想起されていた教科書は真っ黒になった。

信念がない日本人が多いよな。
こういう性質も、企業を破たんに導くことになるのだろ。
日本の近未来も心配だ。


83ページ

ところが、会長の行平次雄は捜査が本格化した後も、相変わらず「うちには違法行為はない」と言い張って、会長の座や日本証券協会会長の職も降りようとしなかった。野村証券や総会屋事件の遠因を作った第一勧業銀行は、強制捜査を受けると間もなく、代表権を持つ役員が総退陣している。山一の往生際の悪さは際立っていた。

正確な情報もトップへ行かず、正常な判断もできない裸の王様になっていてたのだろうな。
企業生命を長らえるためには、
常に正しい方向へ舵を切れる感性を持った経営者、仕掛けが必要だな。


161ページ

自主廃業を宣言した山一がすぐに始めなければならないことが三つあった。
1つは、速やかに営業を停止し、本支店を閉鎖するように社員を導くこと。つまり敗戦処理である。・・・・・・・・・・
2つ目に、顧客から預かった24兆円の株券や資産を早急、かつ正確に返却することである。すなわち精算業務だ。・・
3つ目が債務隠しの真相は暴く社内調査である。



166ページ

会社を支える力とは何だろうか。
山一證券という7700人もの大会社が息絶えようとしたとき、現場には、権力者や「エリート」と呼ばれる人間はほとんど残っていなかった。
自主廃業とともに、大蔵大臣の指示を受けた弁護士らが、「顧問委員会」を組織して本社に乗り込み、部課長クラスとともに重要事項を決めるようになった。社長は廃業宣言のあと、茫然自失という状態で、取締役会は当事者能力を欠くと判断されている。院政を敷いてきた行平の権威のメッキは剥がれ落ち、顧問だった前副社長たちは姿を見せない。



167ページ

皮肉なことに、破綻という非常時になって本社に乗り込んだのは、「場末」とも「姥捨て山」とも陰口を叩かれた組織の人々である。彼らは最後になって、清算と社内調査というけじめの表舞台に登場した。



248ページ

日本の職業観にはかつて、「堅気」という概念があった。堅い商売を貫くことが尊くまっとうとされ、堅いというところに信頼を置く人が多かった。しかし、元首脳の口から語られたCB事件と、それを端緒にした暴走営業は、堅気がやることではなく、「株屋」と呼ばれた世界のヤクザな商売であった。経営破たんはその帰結だったのだ。



261ページ

数年後に簿外債務が発覚し、取り返しのつかない事態に陥ることはわかる。わかっていて、白井やそのほかの首脳は何をしていたのか。
白井は嘉本に対して、先送りの内幕をこう表現した。
「いつもそうだったが、会長と社長のハラが固まっていなかった。どんな意見具申をしても、上のハラが固まらないとどうしようもなかった」



262ページ

会社という組織をどうしようもない怪物に喩える人は多い。しかし、会社を怪物にしていますのは、トップであると同時に、そのトップに抵抗しない役員たちなのである。



290ページ

記者会見には約百人の報道陣が詰めかけた。「社内調査報告書−−いわゆる簿外債務を中心として」。仰々しいタイトルのA4判文書が配布されている。

これが、検索で発見できた資料だと思われる。


292ページ

記者たちの気持ちを見透かすかのように、報告書の冒頭にはこう記されていた。
<今回の社内調査報告書が、従来、我が国で多く見られた結果の公表を伴わない調査、あるいは、自ら行った事実認定を示さず単に抽象的な「反省」の言葉を並べただけの報告書であってはならないという決意の下で、目的を達成すべく調査してきた>