国が消滅する恐怖 ディアスポラ

◎  ディアスポラ


ディアスポラとは始めて聞く言葉だった。


Wikipediaによると

 ディアスポラ(διασπορά、英:Diaspora, diaspora)とは、(植物の種などの)「撒き散らされたもの」という意味のギリシャ語に由来する言葉で、元の国家や民族の居住地を離れて暮らす国民や民族の集団ないしコミュニティ、またはそのように離散すること自体を指す。難民とディアスポラの違いは、前者が元の居住地に帰還する可能性を含んでいるのに対し、後者は離散先での永住と定着を示唆している点にある。歴史的な由来から、英単語としては、民族等を指定せず大文字から単に Diaspora と書く場合は特にパレスチナの外で離散して暮らすユダヤ人集団のことを指し、小文字から diaspora と書く場合は他の国民や民族を含めた一般の離散定住集団を意味する。
 よく知られる例ではギリシャ人、フェニキア人、アルメニア人、華人などの本国外に居住する該当集団をディアスポラと呼ぶことがある。



この本は,今年(2011年)8月発刊だが,
2001年8月、2002年6月に文芸界で発表された
ディアスポラ”と”みずのゆくえ”からなっている。


前半と後半は,内容は関連ないが,
共に『事件』から発生した状況を書いている。
<br>
『事件』とは何かは明確には書かれていないが,
東海村原子力発電所で大事故が発生し,
日本全体が放射能で汚染され,
ほぼ全員の日本国民が国外退去した,との設定だ。


ディアスポラという言葉を知らないで読み始めると,
何のことか判らない小説だと思われる。
言葉が判らず,初めに検索したので,
読み始めると,その恐怖は大きい。


初めの”ディアスポラ”は,
自主的に国外退去し,
チベット奥地で集団生活している人々の村へ
国連職員の日本人が訪れる話。


中国の弾圧の元に管理されているチベット
それも気候の厳しい田舎での悲惨な生活模様。
いつ日本へ帰れるか判らず,
国連からの援助金だけで日々を過ごす,辛い生活,
など可也悲惨だ。


日本を退去した人々は,
ばらばらになって,世界各地で小集団として生活している。


この国連職員は,実は,裏では何か巨大な組織と繋がっていて,
世界に散らばった日本人が
なんらかの組織行動を起こさないか監視している。



後半の”みずのゆくえ”は逆に,
日本から脱出せずに田舎に残った数名の人々の話。


放射能を浴びないように生活し,
売る相手もいない酒造りをする酒蔵の三人。
その友人一家と近所の地主の老人。
そして,3名が放射能で亡くなる。


後半の話は,淡々としていて,何となくホノボノさを感じる。



読み始めて直ぐに判ったが,
これは,原発問題の話で,
発表当時は余り感心を呼ばなかったのだろうが,
福島原発問題で,8月にまとめて発刊となったのだろう。


放射能の怖さ,悲惨な末路も怖いが,
自分たちの国を失う悲しさ,
そして,国を失った人々が,
組織化して何かをしでかすのではと監視されるさまも怖い。


やはり福島原発のような問題の可能性を避けるためにも
原発は止めて欲しい。
それで電気が不足するなら,我慢する。



この本では述べられてなく,少々不自然さを感じた部分もあった。


日本を退去するほどの放射能であれば,
日本だけでなく,近隣諸国へも影響されるはず。
何故日本人だけが退去するのか?


放射能は空気中だけでなく,海洋も汚染するはず。
これだと近隣という距離だけでなく,
海で繋がった国への影響もあるはずだ。


こういう被害をこうむると,その被害の国では
日本,日本人に対する悪感情が大きくなるはずだ。


だから,国連が日本人を援助ではなく,
多分,日本,日本人を封じ込めるのではないかと危惧している。


これらの違和感は,小説の筋とは関係なく,現状での心配事だ。
著者の勝谷誠彦さんは、ディアスポラ
チベットの弾圧をテーマに書かれたそうなので、
原子力発電所の問題には深く言及していないのだろう。


この本もお勧めです。


 ディアスポラ